2010年9月21日火曜日

介護の始まり

介護のはじまり・・・

中学に入ったばかりの俺と小学5年の弟の息子2人を残し、父親は39歳という若さで早くに他界した。
以来ずっと、母が一人で小売業を営み、俺たち2人を、時に父親のように強く、母として優しく育ててくれた。

その母親が60歳くらいから、なんだか様子がおかしいことに気づき始めた。
普段使っている化粧品に、ラベルで使用目的を書き始めたのだ。

「化粧を落とす」とか「下地」とか・・・

当時はあまり気にならなかったけど、資生堂の製品で、用途もきちんと表示されているにも関わらずラベルを貼っていたので、小さい文字が見えなくなったからかな?なんて思ってた。

でも、違うことに少しずつ気がつきはじめた。


計算が苦手になった・・・

同じ内容を繰り返して話す・・・

曜日が分からなくなった・・・・

季節が分からなくなった・・・・

得意だった料理ができなくなった・・・

かつて気高くしっかりした容姿が、日々少しずつ、溶けた蝋燭がこぼれおちるように、崩れていく。



専門医に何度か診察してもらった。
古い記憶はしっかり残っているのに、新しい記憶は、すぐに忘れる。
アルツハイマー性認知症だった。

治る病気ではない。
どうやって進行を穏やかにするか、それをどうやって支えていくか、それが「介護」の始まりだった。

失くしたものが見つからない。
いつからか、作話をするようになり、自分でしまいこんだ財布の行方は、俺が犯人になっていた。

毎晩、明け方まで財布を捜している。

途中、俺もイラつき、何度もきつく言い返したこともある。
殴る寸前まで爆発したことも・・・

「なんで失くしちゃうんだよ。」
「なんで毎回同じこと繰り返しているんだよ。」


強く言い過ぎるたびに、うつむいて動かなくなる母親。



ごめん。
悪かった。

失くした記憶を戻そうとして必死だった母親の姿が、俺の目に映っていなかった。
俺ばかり焦っていた。


なくなったのは「財布」じゃなくて、「記憶」だった・・・
一緒に探そう。

今日も付き合うよ。

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